最近、私が以前勤めていた団体の金銭にかかわる不祥事が各地で相次いでいます。何とも嘆かわしい気分です。そこで思い出されるのが「稲盛和夫の実学」におけるダブルチェックの原則(P107〜P119)です。不祥事の防止策として「コンプライアンス」という言葉が、昨今よく使われるようになりましたが、これを「法令遵守」とだけ形式的に理解すると再発防止には何の役にも立ちません。決まりだけ守れば良いと理解するのではなく、具体的に何をどうするか内規を決め、確実に実行しなければなりません。
ダブルチェックの原則の具体的内容は書籍に譲りますが、要は一人の人に任せず、必ず二人で牽制し合うということです。
一見堅苦しいイメージがありますが、これの背景にあるものは「人に罪をつくらせない」ということです。そのことに触れた原文を一部紹介します。
人の心は大変大きな力を持っているが、ふとしたはずみで過ちを犯してしまうというような弱い面も持っている。人の心をベースに経営していくなら、この人の心が持つ弱さから社員を守るという思いも必要である。これがダブルチェックシステムを始めた動機である。だから、これは人間不信や性悪説のようなものを背景としたものでは決してなく、底に流れているものは、むしろ人間に対する愛情であり、人に間違いを起こさせてはならないという信念である。
真面目な人でも魔が差してしまい、ちょっと借りてあとで返せばいいと思っているうちに、だんだんとそれが返せなくなってしまい、大きな罪をつくってしまう。これは、管理に油断があったためにつくらせてしまった罪でもある。よしんば出来心が起こったにしても、それができないような仕組みになっていれば、一人の人間を罪に追い込まなくてすむ。そのような保護システムは厳しければ厳しいほど、実は人間に対し親切なシステムなのである。
以上です。
善良な人でも、家族に病人がでたり、配偶者がリストラにあって今までの生計が維持できなくなったりすることがあります。こうした時にでも、魔が差せない仕組みになっていれば、不祥事は起こりません。社員に決して罪をつくらせないという思いやりが、経営者の心の中になくてはなりません。
今後、不祥事の新聞記事が掲載されないことを願ってやみません。
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